Nスペ「人体」 健康長寿
- 2018/03/27
- 12:05
Nスペ「人体」
第七集 (最終回)
「健康長寿」究極の挑戦
はじめに
「人体」 神秘の巨大ネットワーク
このシリーズでは、最先端の科学がたどり
着いた、全く新しい人体の姿を伝えてきま
した。
それは、体中の臓器と臓器が直接情報をやり
取りしながら、私たちの体をコントロール
しているという驚きの世界でした。
活躍するのは、臓器たちの発するメッセージ
物質です。
いま、こうしたメッセージ物質の力を利用
することで、私たちを苦しめる様々な病気の
治療が劇的に変わろうとしています。
(がん)
日本人の死因1位で、2人に1人が発症
3人に1人が亡くなっています。
最新の研究により、がん自らが恐怖の
メッセージ物質を発して増殖することが
明らかになりました。
その仕組みを逆手に取り、がん細胞を抑え
込む新しい研究が、いま加速しています。
(心臓病)
年間20万人もの人が亡くなっています。
メッセージ物質を生かした治療によって
今まで不可能と思われていた、心臓の再生
を実現しようとしています。
病を克服し、健やかな長寿を目指す最先端の
戦い、人体の神秘に挑むその挑戦が、私たちの
未来を大きく変えるかもしれません。
「がん」の巧妙な手口
がんはどうやって増殖を繰り返し
広がっていくのか?
そのメカニズムは、これまで多くの謎に
包まれてきました。しかし、最先端の科学が
その実態を少しづつ明らかにしています。
がん細胞が悪だくみを働く様子
・がん細胞が血管に働きかけ、自分の近くに
引き寄せ、増殖に欠かせない酸素や栄養を
血液中からより多く奪い取ろうとしている。
・敵である免疫細胞を手なずけている。
がん細胞は、人体の巨大ネットワークを巧み
に利用していることがわかってきました。
国立がん研究センター研究所
主任分野長 落谷孝広さん
がん細胞がこれまでのメッセージ物質とは
違う、特殊なメッセージを使っていることに
注目しました。
エクソソーム

落谷さんの話
実は、がん細胞は積極的にあるメッセージ
を分泌します。
がん細胞自身が、患者さんの体の中で生き
延びる手段として分泌している
そういったことが分かってきたんです。
がん細胞が発するそのメッセージ物質は
突起が付いた丸い球で、大きさはわずか
1万分の1ミリ、様々なメッセージを丸ごと
詰め込んだメッセージカプセルです。
中には、がん細胞が周りの細胞を支配する
ために使う、様々なメッセージ物質がまと
めて入っていることがわかってきました。
前述の血管に働きかける場合、がん細胞が
送り出したメッセージカプセルが
血管の壁の中に入り、カプセルから
「もっと栄養が欲しい」というメッセージが
放出されます。
すると、血管を作る細胞が、仲間からの
メッセージと勘違いし、がん細胞に向かって
血管を伸ばし始めるといいます。
さらに、免疫細胞に対してもメッセージカプ
セルを発していることが分かってきました。
カプセルからは「攻撃するのをやめて」という
メッセージが発せられ、メッセージを受け
取った免疫細胞は手なずけられて
瞬く間に攻撃をやめてしまうといいます。
山中メモ
がん細胞は、もともと正常な細胞
遺伝子が傷ついて生まれ、増殖を繰り返す。
転移の問題
がん細胞がメッセージ物質を駆使して行う
様々な悪だくみ、中でも、治療を困難にする
のが他の臓器に広がる転移です。
転移の過程でも、メッセージ物質を巧みに
操っていることが明らかになってきました。
(卵巣がんの例)
内臓表面を覆い保護している腹膜に
卵巣がんは転移します。
いったん転移すれば、あっちこっちに広がり
治療が困難になってしまいます。
※腹膜播種
がん細胞が種をまくように転移するので
播種といいます。
これまで、卵巣がんが腹膜に転移する
メカニズムは謎に包まれていました。
腹膜の表面には、突起物がびっしりと敷き
つめられ、がん細胞など異物の侵入を防ぐ
バリアの役割を果たしているからです。
一体、どうやって突破しているのか?
落谷さんが考えるがんの転移のメカニズム
卵巣がんから発せられたエクソソームが腹膜
表面に達し、カプセルが表面の細胞と同じ
成分でできているため、腹膜は仲間だと
勘違いして受け入れてしまいます。
中には、卵巣がんからの
「あなたの役割はもう終わり」という
メッセージがあり、腹膜の表面の突起物の
一部が死滅し始めます。
こうしたやり取りが何度も繰り返され、腹膜
の表面にクレーターのような大きな穴がいく
つも生まれます。
そこに、メッセージの送り主の卵巣がんの
細胞がきて、穴から腹膜に入り込み、なんなく
増殖を繰り返えしていくのです。
「がん細胞」は、エクソソームを自分の分身
武器として、相手の細胞を自在に
コントロールします。
つまり、体のあるゆるバリア機能を破壊し
破綻させる、この機能がエクソソームに
あったということになります。
山中メモ
エクソソームは、がん細胞だけでなく
すべての細胞が分泌し、健康を支えている。
エクソソームの数は一説によると100兆個
エクソソームは究極のメッセージ
これまで見てきたメッセージ物質は、特定
の臓器から臓器へ一つのメッセージだけ
を伝える働きがありました。
ところが、エクソソームは体中のすべての
臓器が発していることがわかっています。
しかも、カプセルの中にはいくつもの
メッセージが閉じ込められていて、状況に
応じて伝わるメッセージが変わります。
まさに、メッセージ物質の親玉です。
注目され始めたのはわずか10年ほど前で
いま盛んに研究されています。
山中メモ
エクソソームの働きについては、まだ分か
らないことが多く、今世界中で研究が進め
られている。
がんのメッセージ物質の解明
新たな治療薬の開発
メッセージ物質の仕組みがわかってきた
ことで、逆にメッセージ物質を使って
がんに対抗しようという、まったく新しい
治療法が出てきています。
期待される治療戦略
世界から注目されている最先端研究
(デンマークの研究所が挑戦)
私たち自身の体に潜むがん撃退パワーを
引き出す
カギになるのは、筋肉が出すメッセージ
シリーズ第2集「脂肪と筋肉が命を守る」で
筋肉が出すメッセージ物質を紹介しました。
例えば、うつの症状を改善する、さらには
記憶力をアップさせる働きです。
その筋肉が出すメッセージ物質が、がんの
治療にも役立つかもしれないというのです。
そのメッセージは、いわばこんな声
「敵がいるよ!」
効果は?
実は、このメッセージには、がん細胞を攻撃
する免疫細胞を活性化させます。
マウスでの実験で、運動をしたマウスでは
がんの増殖が3分の1に抑制されました。
人での効果は、まだわかっていません。
コペンハーゲン大学
ベンテ・ペターセン教授の話
研究で得られたデータから運動は病気の
予防というだけでなく、もはや、治療の
一環だと言えます。
がん患者に対し、運動を薬として処方する
時代がやってくるかもしれません。
エクソソームを叩いて
がんの転移を抑え込む
(日本での研究)
エクソソームにある目印を付ける方法
この目印は、がん細胞が出したエクソソーム
を見つけるとくっつく性質があります。
すると、体の免疫細胞がエクソソームを敵と
認識し、食べ始めるという仕組みです。
マウスでの実験では、目印を付けたマウス
では殆ど、転移が見られませんでした。
(がん細胞の量90%減)
山中メモ
がんは転移によって亡くなる方が多い
転移を抑える様々な研究が行われている。
光免疫療法
がん細胞の出すメッセージを標的にする
がん細胞そのものが、ある種メッセージを
出すことを利用し、そのメッセージを認識
する薬が作られている。
そして、この薬に特殊な光線を照射すること
で薬品が反応し、細胞ごと破裂させる。
山中メモ
光免疫療法はアメリカで臨床試験が行われ
日本でも始まる。
突然襲いかかる「心臓病」
ついに見えた「再生」の鍵
私たちの健康を阻む、もう一つの難敵が
心臓病です。
代表的なのが心筋梗塞、突然私たちを襲う
恐ろしい病気です。
瞬く間に心筋細胞の一部が死滅、一命を取り
留めても心臓を元通りに直すのは困難です。
エクソソームが、心臓病の治療に大きな効果
を上げるのではないかと期待されています。
つぶやき
心筋細胞 → 「疲れたは~しんどいわ~」
腎臓 → 「おしっこしよか」
山中メモ
心臓に負担がかかると、腎臓が尿の量を
増やすことで血圧を下げようとする。
さらにつぶやき
心筋細胞 → 「どんどん細胞増やそうか」
心筋細胞 → 「炎症抑えてや」
心筋細胞 → 「もっと強くするで」
↑
心筋細胞 → 「まかせとき!」
心臓の中の細胞同士がメッセージをやり
取りして、心臓を回復させていることが
わかってきました。
秘めた再生能力を活かす!
驚きの心臓治療
日本人を悩ませる心臓病
年間20万人が死亡
実は、心臓には他の臓器とは異なる厄介な
特徴があり、治療を困難にしています。
多くの臓器は、古い細胞が新しい細胞に入れ
替わりながら活動しています。
しかし、心臓はそのペースが極めて遅く
50年かけても3割程しか細胞が入れ替わら
ないといわれています。
そのため、傷ついた心臓はなかなか元どおり
にはならないのです。
どうにかして、心臓の細胞を新しく作り出す
ことはできないか?
シーダーズ・サイナイ心臓研究所
エデュアルド・マラバン 所長
は、この難題に挑んできました。
研究を続けた結果、心臓の中にごくわずか
ながら、細胞を再生させるメッセージ物質
が潜んでいることを突き止めました。
メッセージ物質の詰まったエクソソーム
この中に「どんどん細胞増やそうか」という
メッセージも含まれています。
メッセージには、心臓の細胞を増殖させる
働きがあります。
しかし、メッセージ物質の数が少ないため
普段はゆっくりとしたペースでしか再生
する力がありません。
このメッセージ物質を人工的に増やして
病気になった心臓に投与すれば、失われた
細胞を蘇らせることができるのでは?
マウスでの実験
心筋梗塞を起こしたマウスへの投与で
大きな成果が現れました。
心筋梗塞を起こしたマウスの心臓の壁
片側の細胞は死滅し壁は薄くなりました。
一方、メッセージ物質を人工的に増やした
マウスでは、増えるはずのなかった細胞が
増殖し、みるみる壁が厚くなったのです。
1年以内の人での臨床試験の開始を目指して
います。
エデュアルド・マラバン 所長の話
エクソソームの解明は、医学に革命をもた
らしつつあります。
もし体内から治療に役立つメッセージ物質
を取り出すことができれば、従来の常識を
くつがえす非常に強力な薬になるでしょう。
山中教授
この方法は、ある意味究極の再生医療で
外から移植するのではなく、体の中の細胞
を増やしたり、自分自身で再生させると
いうことです。
これが完成すると、本当にたくさんの患者
さんの福音になります。
ちょっと復習です
これまで8回にわたったシリーズ「人体」
最先端の科学が解き明かした、体の中の
巨大な情報ネットワークに注目すること
で、臓器と病気との意外な関係が次々と
明らかになりなした。
(腎臓)
腎臓が出すメッセージの異常は、高血圧の
原因になっていました。
そこで、腎臓を手術することで、高血圧を
治すという新たな治療が始まっています。
(腸)
単に消化吸収の器官と思われていた腸が
実は、アレルギー発症の鍵を握っていました。
腸内細菌を整えることが、免疫の異常を
コントロールする手立てになると期待され
ています。
臓器の出すメッセージに耳を傾けることが
治療困難な病気を克服する切り札になると
考えられています。
山中メモ
以前はそれぞれの臓器を理解するのが
治療の近道だと思われていたのが
今は、全体のネットワークを理解しないと
本当の治療にはつながらない。
この半年の間にも、人体の新たな研究が次々
と進んでいます。
(骨)
国際宇宙ステーション
(地上およそ400kmを周回)に骨の細胞が
搭載され、分析が始まっています。
骨には私たちの若さを生みだす重要な
働きがあることは第3集で伝えています。
運動によって骨に刺激が加わると
メッセージ物質が発せられ、免疫力や筋力
さらには記憶力などがアップするのです。
宇宙の無重力状態で、骨にかかる刺激を
コントロールしながら、メッセージ物質が
作り出されるメカニズムを解明しようと
しています。
さらに、アメリカニューヨークにある
ベンチャー企業では、骨が出すメッセージ
物質を利用して、老化を防ぐという研究を
進めています。
若さを司るメッセージ物質を出す骨芽細胞
骨芽細胞を培養して作った骨を、人の体に
戻すことで、絶やすことなく若さを手に
しようというのです。
ベンチャー企業CEOの話
私たちの体には、驚くほど修復力があるので
それをできる限り伸ばそうとしています。
人体のメカニズムの解明によって、人間は
もっと長く健康に生き続けられます。
その「進化の瞬間」を目の当たりにしている
のです。
まとめ
想像をはるかに超えた体の中の高度な情報
ネットワーク
始まりはたった一つの小さな受精卵でした。
メッセージ物質に導かれ誕生した私たち
そして人生を終える瞬間まで、ミクロの物質
がこの体を支え続けています。
にぎやかに、懸命に、尊い命を守る臓器同士
の会話
かけがえのない営みが、あなたの体にも
秘められています。
以上
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第七集 (最終回)
「健康長寿」究極の挑戦
はじめに
「人体」 神秘の巨大ネットワーク
このシリーズでは、最先端の科学がたどり
着いた、全く新しい人体の姿を伝えてきま
した。
それは、体中の臓器と臓器が直接情報をやり
取りしながら、私たちの体をコントロール
しているという驚きの世界でした。
活躍するのは、臓器たちの発するメッセージ
物質です。
いま、こうしたメッセージ物質の力を利用
することで、私たちを苦しめる様々な病気の
治療が劇的に変わろうとしています。
(がん)
日本人の死因1位で、2人に1人が発症
3人に1人が亡くなっています。
最新の研究により、がん自らが恐怖の
メッセージ物質を発して増殖することが
明らかになりました。
その仕組みを逆手に取り、がん細胞を抑え
込む新しい研究が、いま加速しています。
(心臓病)
年間20万人もの人が亡くなっています。
メッセージ物質を生かした治療によって
今まで不可能と思われていた、心臓の再生
を実現しようとしています。
病を克服し、健やかな長寿を目指す最先端の
戦い、人体の神秘に挑むその挑戦が、私たちの
未来を大きく変えるかもしれません。
「がん」の巧妙な手口
がんはどうやって増殖を繰り返し
広がっていくのか?
そのメカニズムは、これまで多くの謎に
包まれてきました。しかし、最先端の科学が
その実態を少しづつ明らかにしています。
がん細胞が悪だくみを働く様子
・がん細胞が血管に働きかけ、自分の近くに
引き寄せ、増殖に欠かせない酸素や栄養を
血液中からより多く奪い取ろうとしている。
・敵である免疫細胞を手なずけている。
がん細胞は、人体の巨大ネットワークを巧み
に利用していることがわかってきました。
国立がん研究センター研究所
主任分野長 落谷孝広さん
がん細胞がこれまでのメッセージ物質とは
違う、特殊なメッセージを使っていることに
注目しました。
エクソソーム

落谷さんの話
実は、がん細胞は積極的にあるメッセージ
を分泌します。
がん細胞自身が、患者さんの体の中で生き
延びる手段として分泌している
そういったことが分かってきたんです。
がん細胞が発するそのメッセージ物質は
突起が付いた丸い球で、大きさはわずか
1万分の1ミリ、様々なメッセージを丸ごと
詰め込んだメッセージカプセルです。
中には、がん細胞が周りの細胞を支配する
ために使う、様々なメッセージ物質がまと
めて入っていることがわかってきました。
前述の血管に働きかける場合、がん細胞が
送り出したメッセージカプセルが
血管の壁の中に入り、カプセルから
「もっと栄養が欲しい」というメッセージが
放出されます。
すると、血管を作る細胞が、仲間からの
メッセージと勘違いし、がん細胞に向かって
血管を伸ばし始めるといいます。
さらに、免疫細胞に対してもメッセージカプ
セルを発していることが分かってきました。
カプセルからは「攻撃するのをやめて」という
メッセージが発せられ、メッセージを受け
取った免疫細胞は手なずけられて
瞬く間に攻撃をやめてしまうといいます。
山中メモ
がん細胞は、もともと正常な細胞
遺伝子が傷ついて生まれ、増殖を繰り返す。
転移の問題
がん細胞がメッセージ物質を駆使して行う
様々な悪だくみ、中でも、治療を困難にする
のが他の臓器に広がる転移です。
転移の過程でも、メッセージ物質を巧みに
操っていることが明らかになってきました。
(卵巣がんの例)
内臓表面を覆い保護している腹膜に
卵巣がんは転移します。
いったん転移すれば、あっちこっちに広がり
治療が困難になってしまいます。
※腹膜播種
がん細胞が種をまくように転移するので
播種といいます。
これまで、卵巣がんが腹膜に転移する
メカニズムは謎に包まれていました。
腹膜の表面には、突起物がびっしりと敷き
つめられ、がん細胞など異物の侵入を防ぐ
バリアの役割を果たしているからです。
一体、どうやって突破しているのか?
落谷さんが考えるがんの転移のメカニズム
卵巣がんから発せられたエクソソームが腹膜
表面に達し、カプセルが表面の細胞と同じ
成分でできているため、腹膜は仲間だと
勘違いして受け入れてしまいます。
中には、卵巣がんからの
「あなたの役割はもう終わり」という
メッセージがあり、腹膜の表面の突起物の
一部が死滅し始めます。
こうしたやり取りが何度も繰り返され、腹膜
の表面にクレーターのような大きな穴がいく
つも生まれます。
そこに、メッセージの送り主の卵巣がんの
細胞がきて、穴から腹膜に入り込み、なんなく
増殖を繰り返えしていくのです。
「がん細胞」は、エクソソームを自分の分身
武器として、相手の細胞を自在に
コントロールします。
つまり、体のあるゆるバリア機能を破壊し
破綻させる、この機能がエクソソームに
あったということになります。
山中メモ
エクソソームは、がん細胞だけでなく
すべての細胞が分泌し、健康を支えている。
エクソソームの数は一説によると100兆個
エクソソームは究極のメッセージ
これまで見てきたメッセージ物質は、特定
の臓器から臓器へ一つのメッセージだけ
を伝える働きがありました。
ところが、エクソソームは体中のすべての
臓器が発していることがわかっています。
しかも、カプセルの中にはいくつもの
メッセージが閉じ込められていて、状況に
応じて伝わるメッセージが変わります。
まさに、メッセージ物質の親玉です。
注目され始めたのはわずか10年ほど前で
いま盛んに研究されています。
山中メモ
エクソソームの働きについては、まだ分か
らないことが多く、今世界中で研究が進め
られている。
がんのメッセージ物質の解明
新たな治療薬の開発
メッセージ物質の仕組みがわかってきた
ことで、逆にメッセージ物質を使って
がんに対抗しようという、まったく新しい
治療法が出てきています。
期待される治療戦略
世界から注目されている最先端研究
(デンマークの研究所が挑戦)
私たち自身の体に潜むがん撃退パワーを
引き出す
カギになるのは、筋肉が出すメッセージ
シリーズ第2集「脂肪と筋肉が命を守る」で
筋肉が出すメッセージ物質を紹介しました。
例えば、うつの症状を改善する、さらには
記憶力をアップさせる働きです。
その筋肉が出すメッセージ物質が、がんの
治療にも役立つかもしれないというのです。
そのメッセージは、いわばこんな声
「敵がいるよ!」
効果は?
実は、このメッセージには、がん細胞を攻撃
する免疫細胞を活性化させます。
マウスでの実験で、運動をしたマウスでは
がんの増殖が3分の1に抑制されました。
人での効果は、まだわかっていません。
コペンハーゲン大学
ベンテ・ペターセン教授の話
研究で得られたデータから運動は病気の
予防というだけでなく、もはや、治療の
一環だと言えます。
がん患者に対し、運動を薬として処方する
時代がやってくるかもしれません。
エクソソームを叩いて
がんの転移を抑え込む
(日本での研究)
エクソソームにある目印を付ける方法
この目印は、がん細胞が出したエクソソーム
を見つけるとくっつく性質があります。
すると、体の免疫細胞がエクソソームを敵と
認識し、食べ始めるという仕組みです。
マウスでの実験では、目印を付けたマウス
では殆ど、転移が見られませんでした。
(がん細胞の量90%減)
山中メモ
がんは転移によって亡くなる方が多い
転移を抑える様々な研究が行われている。
光免疫療法
がん細胞の出すメッセージを標的にする
がん細胞そのものが、ある種メッセージを
出すことを利用し、そのメッセージを認識
する薬が作られている。
そして、この薬に特殊な光線を照射すること
で薬品が反応し、細胞ごと破裂させる。
山中メモ
光免疫療法はアメリカで臨床試験が行われ
日本でも始まる。
突然襲いかかる「心臓病」
ついに見えた「再生」の鍵
私たちの健康を阻む、もう一つの難敵が
心臓病です。
代表的なのが心筋梗塞、突然私たちを襲う
恐ろしい病気です。
瞬く間に心筋細胞の一部が死滅、一命を取り
留めても心臓を元通りに直すのは困難です。
エクソソームが、心臓病の治療に大きな効果
を上げるのではないかと期待されています。
つぶやき
心筋細胞 → 「疲れたは~しんどいわ~」
腎臓 → 「おしっこしよか」
山中メモ
心臓に負担がかかると、腎臓が尿の量を
増やすことで血圧を下げようとする。
さらにつぶやき
心筋細胞 → 「どんどん細胞増やそうか」
心筋細胞 → 「炎症抑えてや」
心筋細胞 → 「もっと強くするで」
↑
心筋細胞 → 「まかせとき!」
心臓の中の細胞同士がメッセージをやり
取りして、心臓を回復させていることが
わかってきました。
秘めた再生能力を活かす!
驚きの心臓治療
日本人を悩ませる心臓病
年間20万人が死亡
実は、心臓には他の臓器とは異なる厄介な
特徴があり、治療を困難にしています。
多くの臓器は、古い細胞が新しい細胞に入れ
替わりながら活動しています。
しかし、心臓はそのペースが極めて遅く
50年かけても3割程しか細胞が入れ替わら
ないといわれています。
そのため、傷ついた心臓はなかなか元どおり
にはならないのです。
どうにかして、心臓の細胞を新しく作り出す
ことはできないか?
シーダーズ・サイナイ心臓研究所
エデュアルド・マラバン 所長
は、この難題に挑んできました。
研究を続けた結果、心臓の中にごくわずか
ながら、細胞を再生させるメッセージ物質
が潜んでいることを突き止めました。
メッセージ物質の詰まったエクソソーム
この中に「どんどん細胞増やそうか」という
メッセージも含まれています。
メッセージには、心臓の細胞を増殖させる
働きがあります。
しかし、メッセージ物質の数が少ないため
普段はゆっくりとしたペースでしか再生
する力がありません。
このメッセージ物質を人工的に増やして
病気になった心臓に投与すれば、失われた
細胞を蘇らせることができるのでは?
マウスでの実験
心筋梗塞を起こしたマウスへの投与で
大きな成果が現れました。
心筋梗塞を起こしたマウスの心臓の壁
片側の細胞は死滅し壁は薄くなりました。
一方、メッセージ物質を人工的に増やした
マウスでは、増えるはずのなかった細胞が
増殖し、みるみる壁が厚くなったのです。
1年以内の人での臨床試験の開始を目指して
います。
エデュアルド・マラバン 所長の話
エクソソームの解明は、医学に革命をもた
らしつつあります。
もし体内から治療に役立つメッセージ物質
を取り出すことができれば、従来の常識を
くつがえす非常に強力な薬になるでしょう。
山中教授
この方法は、ある意味究極の再生医療で
外から移植するのではなく、体の中の細胞
を増やしたり、自分自身で再生させると
いうことです。
これが完成すると、本当にたくさんの患者
さんの福音になります。
ちょっと復習です
これまで8回にわたったシリーズ「人体」
最先端の科学が解き明かした、体の中の
巨大な情報ネットワークに注目すること
で、臓器と病気との意外な関係が次々と
明らかになりなした。
(腎臓)
腎臓が出すメッセージの異常は、高血圧の
原因になっていました。
そこで、腎臓を手術することで、高血圧を
治すという新たな治療が始まっています。
(腸)
単に消化吸収の器官と思われていた腸が
実は、アレルギー発症の鍵を握っていました。
腸内細菌を整えることが、免疫の異常を
コントロールする手立てになると期待され
ています。
臓器の出すメッセージに耳を傾けることが
治療困難な病気を克服する切り札になると
考えられています。
山中メモ
以前はそれぞれの臓器を理解するのが
治療の近道だと思われていたのが
今は、全体のネットワークを理解しないと
本当の治療にはつながらない。
この半年の間にも、人体の新たな研究が次々
と進んでいます。
(骨)
国際宇宙ステーション
(地上およそ400kmを周回)に骨の細胞が
搭載され、分析が始まっています。
骨には私たちの若さを生みだす重要な
働きがあることは第3集で伝えています。
運動によって骨に刺激が加わると
メッセージ物質が発せられ、免疫力や筋力
さらには記憶力などがアップするのです。
宇宙の無重力状態で、骨にかかる刺激を
コントロールしながら、メッセージ物質が
作り出されるメカニズムを解明しようと
しています。
さらに、アメリカニューヨークにある
ベンチャー企業では、骨が出すメッセージ
物質を利用して、老化を防ぐという研究を
進めています。
若さを司るメッセージ物質を出す骨芽細胞
骨芽細胞を培養して作った骨を、人の体に
戻すことで、絶やすことなく若さを手に
しようというのです。
ベンチャー企業CEOの話
私たちの体には、驚くほど修復力があるので
それをできる限り伸ばそうとしています。
人体のメカニズムの解明によって、人間は
もっと長く健康に生き続けられます。
その「進化の瞬間」を目の当たりにしている
のです。
まとめ
想像をはるかに超えた体の中の高度な情報
ネットワーク
始まりはたった一つの小さな受精卵でした。
メッセージ物質に導かれ誕生した私たち
そして人生を終える瞬間まで、ミクロの物質
がこの体を支え続けています。
にぎやかに、懸命に、尊い命を守る臓器同士
の会話
かけがえのない営みが、あなたの体にも
秘められています。
以上
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